蚕の様々な用途

さなぎ

 カイコを人間が飼うようになった発端は、蛹を食べるためだったともいわれている。その栄養価は「蛹3つで卵1つ分」といわれるほど高く、現在でも長野県では、蛹を佃煮などにして食べる習慣がある。
 また魚の養殖や釣りエサなどに加工したり、雄の成虫を食べるところもある。


絹糸

 カイコが吐く絹糸は、わずか0.02mmという細さである。その糸の断面は、三角を2つつなげたような形をしている。この三角の部分がフィブロインで、これが絹糸となる。またフィブロインを接着して1本の糸にしているのが、セリシンである。


セリシン

 セリシンはこれまで、糸をつむぐとき(精練)湯で溶かしだして捨てられていた。しかし最近、保湿の効果などがあることがわかり、化粧品や入浴剤の原料として使われ始めている。



絹織物(衣服・寝具)


紬(つむぎ)

 マユからセリシンを除き、薄く引き延ばして重ねた真綿を原料として織り上げたものを「紬・紬織物」と呼ぶ。渋く、深い味わいを持つ着物で、着物通が好む織物といわれる。江戸時代から伝わる伝統文化として、各地でつくられている。



琴の弦(工芸・美術品)

 三味線や琴の弦として、絹糸が古くから使われてきた。音色のよさがその特徴だが、切れやすいなどの欠点があるため、現在ではナイロンやテトロン製などの糸もよく使われている。


手術用縫い糸(医療品)

 吸湿性、放湿性が高い絹は、他の繊維のものに比べてより衛生面で優れている。また、天然素材のため肌にもやさしい。そのため、医療用として利用されることも多く、手術用の縫い糸、マスクやガーゼ、または老人向けの衣料などの開発が進められている。


食品

 絹は、良質のアミノ酸を多く含む素材である。たとえば、血中コレステロールの低下作用を持つグリシン、セリン、アルコール代謝を促進するアラニンなどが含まれていることから、健康食品としての利用が期待されている。


口紅(化粧品)

 昔から、製糸工場でマユ煮て糸を紡ぐ人の手は、とてもすべすべとしてきれいなことが知られており、肌によい成分が含まれていると考えられてきた。近年、その成分がコラーゲンに似た構造をもつセリシンであることがわかってきた。タンパク質の保湿性が肌に潤いを与え、紫外線を吸収する性質があるためで、そのUVカット効果の高さから、シルクパウダーの入った化粧品は注目を集めている。

フィブロイン

 フィブロイン(絹糸をつくっている成分)を薬品でやわらかくしてから砕くと、粒子の細かい粉末となる。この微粉末を溶かした液を他の布にコーティングして、絹の肌触りや保湿性を再現する技術が開発されている。


ボールペン

 フィブロインを粉末化したものをプラスティックなどにコーティングすると、肌触りのよいシルクレザーとなる。
 シルクレザーは汗を吸収してすべりにくいので、さらりとした感触のコーティング材として、ボールペンなどに利用できる。


コンタクトレンズ

 フィブロインを薬品で溶かしてからあらためて固めると、タンパク質の透明な膜になる。この膜は空気を通し、人の肌にもなじむため、酸素透過性のコンタクトレンズとして利用できる。またやけどの治療に使う人工皮膚をつくることも研究されている。


ハイブリッドシルク

 絹の欠点(摩擦に弱い、洗濯しにくい、黄ばみやすいなど)をカバーするために、ほかの繊維とからみあわせたハイブリッドシルクがつくられている。 たとえばナイロンとのハイブリッド繊維は、絹の肌触りや高級感と、ナイロンの摩擦の強さをあわせもつ繊維である。