DNJで血糖を調節してくれる蚕(かいこ)の粉末

<漢方薬材料の話>

ソウル市で医院(キョンヒバルン韓医院)を経営する院長のブログ「韓医秘伝」の記事から

2024年1月24日

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今日は蚕の粉末について解説します。

東医宝鑑の記録を見ると、白彊病にかかって死んだ白彊蚕(びゃっきょうさん)、蚕の蛹である蚕蛹子(さんようし)、蚕の糞である蚕沙(さんさ)、蚕の成虫である原蚕蛾(げんさんが)などが薬材として登場しますが、蚕の幼虫の薬効に関する記述はありません。

現代になってようやくその血糖降下効果が研究され、本格的に健康食品として流通し始めました。

漢方医学では糖尿病の事を消渇(しょうかち)と呼びます。

世宗大王がり患した疾患として知られていますね。消渇とは糖尿病がかなり進行してインシュリンの分泌がかなり低下した状態と解釈されます。心配や不安を表す「消」と喉の渇きを表す「渇」という字を組み合わせた病名です。空腹感を感じるのでよく食べ、よく飲むのですが体重は増えず、逆に痩せていくことが多くみられました。

吸収したブドウ糖をインシュリンを使って処理しなければならないのに、インシュリンの量が全く足りていない状況です。

血中のブドウ糖が異常に高いのでそれを体外に排出しようとして小便が多くなります。小便の排出が多いので喉が渇いて水をガブガブ飲みます。

このような消渇の症状に活用された蚕関連の記録は以下のようになっています。

〇操糸湯(そうしとう)

蚕の繭(まゆ)から糸を繰り出すにはまずお湯で茹でなければなりません。繭を湯掻いた後の水を操糸湯と呼びます。

東医宝鑑の記述によれば、

1.操糸湯は体内の回虫を無くす。

2.消渇症による喉の渇きに飲用する。

ほかの文献でも大体が同じような記述で、消渇を治療するために蚕の繭(まゆ)や蛹(さなぎ)を茹でた水などを利用していました。繭を作る前の段階である幼虫を治療に利用した記録は探せません。その理由は、シルクは当時もかなり高価な衣料素材だったので、繭(絹糸の塊)を作った後に活用したのではないかと推測できます。

蚕が糖尿病に聞く理由は何でしょうか?

現代の研究によれば蚕の血糖降下効果は1-Deoxynojirimycin(デオキシノジィマイシン、以下DNJ)由来です。

DNJはa-glycosidase阻害剤です。二糖類がブドウ糖や果糖に分解されるのを妨害します。すなわちご飯・麺類などの炭水化物を食べても、ブドウ糖や果糖に分解されなければ身体に吸収することができないのです。

DNJの血糖調節メカニズムとは?

DNJは桑だけに含まれている固有の成分です。(将来ほかの植物でも見つかるかも知れませんが現在発見されているのは桑だけです。

漢方の分野では、桑の葉は「桑葉(そうよう)」、桑の木の若い枝は「桑枝(そうじ)」と呼ばれています。

東医宝鑑には桑枝の効用について下のように記されています。

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桑の若い枝を煮詰めてつくる「桑枝茶」

桑枝茶は体内の余分な水分を排出し体重を減らす。太った人は長期間飲用するのがよい。

桑枝茶は消渇による喉の渇きを治療するので日常的にお茶として飲用すればよい。

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このような効用のある桑の葉だけを主食にして育つのが蚕(カイコ)なのです。

蚕は幼虫期の全期間、この桑の葉だけを食して育ちます。なので自然と体内にDNJが蓄えられます。

蚕の体内には桑の葉よりも2~3倍多くDNJが含まれます。

*出典は農村振興庁の資料

蚕粉末の糖尿病対する効果はここに根拠があります。

桑の葉を最も多量に摂取した後の五齢三日目の蚕を薬材として使用するそうです。

蚕粉末と桑の葉など、どちらが優れているでしょうか?

桑の葉でもDNJは摂取できるので、血糖降下作用を期待して摂取するのは悪くない選択です。昆虫である蚕の粉末を摂取するよりは心理的な拒否感も低いでしょう。

しかし、蚕のDNJは桑の葉のそれと違って、蚕がすでに桑の葉を消化して、人が摂取しても容易に体内で利用できる状態にしてくれているということです。

桑の葉をいくら煮詰めても、桑の葉に含まれるDNJをすべて絞り出すことはできません。

理論上は桑の葉に比べて2~3倍のDNJですが、実際人体に取り込まれるDNJの量は、桑の葉より10倍以上に達すると見られています。

また、DNJは熱に弱くて加熱すると壊れてしまうので、お茶などでは合理的にDNJを摂取することができません。
蚕粉末は熱乾燥したものより冷凍乾燥したものが、より優れた効果を発揮するのもこのためです。