蚕粉末の開発秘話

1. 養蚕から食品素材へ ― 発想の転換

蚕は古来より「絹」をとるために飼育されてきました。しかし、養蚕業が衰退する中で、 「繭や蚕を捨ててしまうのはもったいない」 という思いから、養蚕研究者や食品会社が「蚕を丸ごと活用できないか」と考え始めました。

特に注目されたのが イミノシュガー(DNJ) と呼ばれる成分で、桑葉や蚕に多く含まれていることが分かりました。この物質は消化酵素の働きを調整し、食後の糖の吸収に影響を与えるという点で研究が進んでいきました。

2. 偶然から始まった“蚕の健康効果”

養蚕農家の方々には昔から「蚕を育てている人は健康長寿が多い」といった言い伝えがありました。

実際、繭や蚕を口にする地域的な習慣もあり、そこから 「蚕そのものに健康成分があるのでは?」 という仮説が生まれました。これが研究の出発点となり、大学や製薬会社、食品メーカーが成分分析を進めていったのです。

3. 桑の葉との比較で見えた優位性

桑の葉も古くから糖代謝に関わる食品素材として知られていました。しかし研究が進むにつれ、 同じDNJを含んでいても、蚕由来の方が吸収性や作用が強い という結果が出てきました。

これは「蚕が桑の葉を食べる過程で、成分が変化・濃縮される」ためと考えられています。桑の葉と比較する動物実験でも、蚕粉末の方が有効性が高いという報告があります。

4. 機能性表示食品への挑戦

日本では健康食品に「効果」をうたうには、科学的根拠が必要です。蚕粉末の開発にあたっては、

・有効成分の同定(イミノシュガー、たんぱく質、キトサンなど)

・動物試験やヒト臨床試験でのデータ収集

・薬機法に抵触しない表現での届出・審査

といったハードルをクリアしなければなりませんでした。

こうした努力の結果、「食後の血糖上昇をおだやかにする」という機能性をもつ食品素材として認められるに至りました。

5. 農業再生と地域活性化の物語

蚕粉末の研究・商品化は、単なる健康食品の開発にとどまらず、 衰退した養蚕業を新しい形で再生する取り組み にもなっています。

かつて日本の基幹産業であった養蚕を「健康」という切り口で甦らせるという点に、社会的な意義やロマンが込められています。